市井文学

吉本隆明/中学生のための社会科

はじめに

この本の表題として『中学生のための社会科』というのがふさわしいと考えた。ここで「中学生」というのは実際の中学生であっても、わたしの想像上の中学生であってもいい。生涯のうちでいちばん多感で、好奇心に富み、出会う出来事には敏感に反応する軟らかな精神をもち、そのうえ誰にもわずらわされずによく考え、理解し、そして永く忘れることのない頭脳をもっている時期の比喩だと受け取ってもらってもいい。またそういう時期を自分でもっていながらそれに気付かず、相当な年齢になってから「しまった!」と後悔したり、反省したりしたわたし自身の願望が集約された時期のことを「中学生」と呼んでいるとおもってもらってもいいとおもう。
ただ老齢の現在までにさまざまな先達、知人、生活、書物などから学んだり刺激を受けたりしたこと、体験の実感から得たものがたくさん含まれているが、すべてわたし自身が考えて得たものばかりで、模倣は一つも含まれていないつもりだ。これがせめて幻想を含めた「中学生」にたいする贈物だとおもっている。
さあ、このくらいにしてあとは読者の理解や誤解の「自由さ」にまかせよう。

二〇〇四年十二月

吉本隆明記


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